HADES and HEAVEN
前編とある撮影スタジオの片隅。
一人の少年が雑誌を開いていた。
そこに映っているのは一人のモデルだった。
その姿は完成された絵画のようだ。
そして最も印象的なのはその瞳。
その力強さは見るものの心を鷲掴みにするように捕らえる。
だが、この少年…いや、その外見は青年といってもいいだろう。
彼はかすかに舌打ちをした。
「HADES,It is time. I pray for your standby.(HADES、時間だ。スタンバイを頼む。)」
「OK.」
カツンと小気味のいい靴音を立てて、彼は立ち上がった。
「HADES」 1年ほど前からアメリカにて名前をとどろかせているファッションモデルである。
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「ふぁ…。」
十二支高校1年B組にて、天国は大きくあくびを漏らした。
天国が世界的に有名なモデル「HEAVEN」であったことがバレてからそろそろ1ヶ月。
天国曰く「自然な演技の賜物」で以前は決してなかった
遠慮がちで興味深げな視線にも最近は慣れてきていた。
この日は珍しく部活も休みで、幼馴染で鬼ダチの沢松の家に押しかけて
のんびりしようかと考えていた。
そのとき。
〜〜♪
天国の携帯の音が響く。
見るとそれは先ほど考えていた鬼ダチの番号だった。
そういえばさっきトイレに行くといって出たところで、今は彼を待っている最中。
なぜ直接言わずに電話が来ているのだろうか。
疑問に思いながら、それを解消すべく天国は電話に出た。
「おう、何だ?」
『天国?お前まだ教室か?!』
相手は沢松だった。
「ん?何だ?ああ、教室に居るけど?」
『よし、お前今すぐ裏門から帰れ!ちょっとややこしいことになってんだ。』
沢松の常ならぬ急いだ様子に、天国は怪訝に思いながら
親友の言葉におとなしく従うことにした。
足早に階段を走り降りて階下に到着し、そのまま裏門側の窓を飛び越えていくと、
裏門へと走った。
しかし。
「ドコヘ行ク?天国…。」
「!!!」
沢松が言っていたことを、天国はここで全て理解できた。
できればこんなに早くは知りたくなかった気もするが…。
そこにいたのは…「HADES」。
本名 雉子村黄泉。 昔両親が別れて以来、一度も会ったことのなかった兄の姿だった。
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「で…?」
「ドウイウコトカと聞イテルンダ。
モデルヲ休業スルナド…シカモ順調ナ時期ダ。
随分トエラクナッタモンダナ。」
天国は、実家とは別に自分名義で購入しているマンションに兄を連れてきた。
実家に連れ帰るのも気が引けたし、何よりもここの方が近かったからだ。
いくら目立たなくしているとはいえ、天国が「HEAVEN」であることは周知のことになってしまっている。
それに加え、日本ではまだ知られていないとはいっても、
明らかに業界の雰囲気をさらしている兄を連れて帰るのは無謀ともいえた。
だからここにつれてきたのだが…。
用件を聞くと、開口一番で言ってきてことはこれだった。
父とともにアメリカに行き、天国と同じモデルとして名を上げてきたことは、知っていたが。
だからといって、そんな口をたたかれるのは不愉快だった。
たとえ兄でも。
「そんなのアンタにはカンケーないじゃねえか?
アンタこそ絶好調の時になまけもんモデルにかまいに来るなんて、結構暇なんじゃねえの?」
何の衒いもなく言葉を返す天国に、黄泉はふん、と息をついた。
「口モヘランヨウニナッタナ。」
「どういたしまして。」
ふう、と再度黄泉は息を吐くと、
今度は更に真剣な目を向けてきた。
「…今日ハ ソレダケヲ言イニ来タンジャナイ。
本題ニ入ラセテモラウゾ。」
「お好きにどうぞ。」
本題だろうがなんだろうが、勝手に言ってくれという気分だった。
子どもの頃は大好きだった兄貴…彼に、そして父に捨てられた時の気分は、
今も思い出したくないくらいに大きな悲しみを天国に与えたのに。
それでも、その直後から与えられた仕事と、それを支えてくれた皆が
自分の心に居場所を与えてくれたものだ。
今は…そんな人たちにわがままを言っている…その自覚はあった。
だが、それを目の前に居る彼に言われるのは…不愉快だった。
そう思いながら聞いた言葉は。
思いがけない言葉だった。
「オ前ト…オレデ、トイウ仕事ノ企画ガアル…。
引キ受ケテ欲シイ。」
「…!」
To be Continued…
モデルシリーズ、結局前後編になってましてすみません…!!
今回は黄泉さんの登場です。
とりあえずモデルシリーズを消化させていただいてます…他のリクエストの方には申し訳ありませんが…。
他のも何とか頑張ります!!
月乃飛鳥さま、後編も近日中にupしますので…。
素敵なリクエストありがとうございました!
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